渡岸寺 十一面観音
本来仏像に性別はない。
というか性別を超越した存在であるからして。
人間っぽいお姿をしていらっしゃるけども、人間ではないわけで。
たとえ色っぽいお姿をしていても、女性ではなく祈りの対象なので決して欲情してはいけないわけで。
しかしオレは仏像に恋をしてしまった・・・。
ある日、娘と仏像の写真集を見ていたときのことだった(娘はオレの英才教育によって、今では絵本の代わりに「あしゅら〜あしゅら〜」と言って仏像写真集を読んでくれとせがんでくる)。
いろんな観音菩薩が載っているページで、ある仏像がオレの目に止まった。
渡岸寺の十一面観音。
聞いたことのないお寺の名前だった。
滋賀県の湖北にあるらしい。
当時のオレは庭園派だったので、有名な庭のある寺以外は、特に京都以外の寺についてはほとんど知らなかった。
しかし、その仏像は写真集の中で大きく扱われていた。
彼女は圧倒的に美しかった。
そしてエロかった。
一瞬グラビアアイドルかと見間違ったが、彼女たちには決して見られない知性に溢れていた。
知的かつエロい。知エロ。チェロ。
世の中にはそういうジャンルがあることをオレは知った。
オレはその写真に釘付けとなり、さっそく滋賀に行く予定を立てた。
その高月町の近くには、観音がたくさんおわすということなので、2日くらいでまとめて見て回ろうと思った。
妻には「近江牛」とか「美しい琵琶湖の夕焼け」などキャッチーなフレーズでアピールし、連休に滋賀旅行の予約を入れることに成功したのだった。
渡岸寺は湖北の高月町という小さな町にあった。
そこは「観音の里」というヨダレが出そうなステキな異名を持つほど、たくさんの観音を持っていた。
多くの寺ではすでに住職がいなくなっているため、村人が持ち回りで仏像を管理していて、拝観する際は村人に電話するというスタイルが一般的なその村で、渡岸寺だけは住職もいて立派な霊宝館もあり、観光客でにぎわっていた。
オレは高鳴る胸を抑えながら、彼女のいる霊宝館に入った。
なんかカッコいいドアがウィ〜ンと開いて、目の前に彼女の姿が飛び込んできた。
鼻血が出た。
オレの心の中の鼻血が出た。
まず腰のひねりがエロかった。
オレを誘惑してるんじゃねえかってくらいに魅惑的なその腰にかぶりつきたくなったが、国宝なので警備員のガードも硬く近づけなかったので、オレは代わりに自分の娘の腰にかぶりついた。
係の方が観光客に説明を始めたが(戦争の間は土の中に埋められていた等の話)、その辺のことはオレは事前に予習して知っていたので、説明を聞かずにダーリンの周りをグルグル回り始めた。
ダーリンは四方から鑑賞できるようになっており、まずは真後ろで足を止めた。
なんてエロい後ろ姿なんだろう・・・。
なんでそんなに腰が窪んでんの?そしてひねってんの?
オレ、まさか誘われてるんじゃないだろうか・・・。
抑えろ、オレ。
妻が見ているじゃないか。
こんなところで下半身を露出するわけにはいかない。
しかし、オレは目を覚ました。
ダーリンの後ろ姿にみとれていたオレをあざ笑うように、後頭部についた暴悪大笑面が何とも形容できない笑みを浮かべているではないか!
ギャーーーー!
怖えよ、暴悪大笑面!
オレのこの下衆なエロ心なんかお見通しってことか・・・。
しかし、美女の後ろにこんな恐ろしい顔がついてるなんて・・・。
まるで世の中の女たちそのものじゃないか!
オレのリビドーは一瞬でシュルシュルになった。
しかしこのダーリンの美しさ、なんということだろうか。
どこから見ても、どの高さから見ても完璧に美しい。
優しく垂れた長い右手、花瓶を持つセクシーな左手。
髪型もso cuteだぜ、ダーリン!
オレは様々な角度で眺めるべく、ダーリンの周りをグルグルと回り続けた。
他の客がとっくに帰った後も、妻が娘を外に連れ出した後も、オレはグルグル回り続けた。
そしてオレは気付いた。
オレはまるで彼女の衛星じゃないか・・・彼女が地球で、オレが月・・・。
そしていつまで経ってもオレはダーリンには近づけない・・・。
まるでオレたちは織姫と彦星だね、ダーリン。
ふう・・・恋って切ないぜ・・・。
ダーリンはオレの十一面観音チャートに初登場1位でランクインして以来、今も11週連続で1位を驀進している。
そう、オレは今でも君に夢中なんだ。
もういい加減、オレをこの切ない気持ちから解放してほしいのに・・・。
渡寺岸
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渡岸寺
山号:慈雲山
宗派:真宗大谷派
本尊:木造阿弥陀如来坐像
創建年:(伝)736年
開基:(伝)泰澄
拝観料:300円
拝観時間:9:00-16:00
公共交通機関:JR北陸本線「高月駅」下車 徒歩 10 分
車:北陸自動車道木之本ICから車で15分
駐車場:普通車30台、大型車5台
電話:0749-85-2632
